点頭てんかん

点頭てんかん(ウエスト症候群)とは

点頭てんかん(Infantile spasms)は、通常1歳未満の乳児に発症する予後不良のてんかん症候群です。1841年、英国のWest医師が彼自身の息子の病状と経過を報告したことから初めて知られるようになり、ウエスト(West)症候群とも呼ばれています。点頭てんかんは、繰り返すてんかん性れん縮とヒプスアリスミアと呼ばれる脳波所見を特徴とします。ヒプスアリスミアは特徴的な脳波所見ですが、すべての症例で認められるわけではなく、臨床経過の全期間を通じてみられるわけでもありません。

※多様な振幅を有する徐波が無秩序で持続性に出現し、棘波、鋭波が混じる混沌とした異常脳波。

発症率

出生数1,000に対して0.16~0.42人といわれ1)、男児の罹患がやや多い傾向にあるとされています。乳児期に発症する薬剤治療抵抗性てんかんの代表的なものといえます。

1)「ウエスト症候群の診断・治療ガイドライン」日本てんかん学会ガイドライン作成委員会・てんかん学会ガイドライン作成委員会

点頭てんかんの発作

「点頭」つまり、「うなずく」という名前が示すようにその発作の形は特徴的です。突然、頭部を前屈(点頭)してうなずくような仕草のほか、体を折り曲げるようにお辞儀をしたり、両上肢を振り上げたりする発作が数秒続き、意識は保たれていることがほとんどです。個々の発作は瞬間的か数秒ですが、短時間(数秒から10数秒)間隔で何度も反復して繰り返し、このことをシリーズ形成といいます。発作回数は次第に多くなり、1回のシリーズ中の発作の回数も、また1日のシリーズの回数も増加していく傾向がみられます。発作は覚醒期にみられますが、入眠まぎわや覚醒まぎわにおこることが多いようです。通常のてんかん発作とは異なることから、気づかれにくく治療開始が遅れることもあります。

点頭てんかん患者さんにみられる「れん縮」の一例

発作以外の症状

点頭てんかんのもっとも深刻な点は、重篤なてんかん性脳症で、数日~数週間の単位で笑わなくなり、反応が乏しく不機嫌になります。首のすわりがなくなる、お座りができなくなるなど今までの発達が退行します。原因不明の退行が乳児期におこった場合には、点頭てんかんの可能性を疑う必要があります。

原因はさまざま

治療効果や予後は原因によって大きく異なることから、治療前に各種検査を行って原因をできるだけ明らかにし、非症候性(特発性/潜因性)であるのか症候性なのかを判別しなければなりません。

症候性の点頭てんかんには、代謝性疾患、脳形成不全、低酸素性虚血性脳症、染色体異常などの基礎疾患が考えられますが、これらを検索するためには、血液検査や尿検査に加えて専門的な検査、CTおよびMRI、必要に応じてSPECTやPET等の検査を行います。

発症前にすでに何らかの脳障害の症状がみられます。構造的あるいは生化学的な基礎原因が判明しているかあるいは明らかに想定されます 。非症候性に比べて症候性の割合が高い。基礎原因としては、結節性硬化症、新生児重度仮死による脳障害、Aicardi症候群、胎児感染症などが知られています。発症までの発達が正常で、基礎原因やその他の神経学的徴候および症状がみられない症例です。家族歴が関連している可能性があります。発症前の発達遅滞、あるいはその他の神経学的所見がみられ、症候性が疑われるにもかかわらず、構造的あるいは生化学的な基礎疾患が同定できない症例。脳画像所見を含む各種検査で異常が
みられません。両者の区別は困難です。

注1 結節性硬化症:結節性硬化症は、皮膚、神経系、腎、肺、骨など全身の色々なところに良性の腫瘍や先天性の病変ができる病気で、乳児期にはてんかん発作を引きおこすことがあります。乳児早期には点頭てんかん、それ以降には意識がなくなり手足の一部がけいれんするタイプの複雑部分発作が多くみられます。乳児期にてんかん発作が発現し、治療しても治りにくい場合は、 知的障害が重度になる可能性が高くなります*。

*公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センターホームページより一部引用改変

注2 新生児重度仮死による脳障害:胎児はへその緒を通じて呼吸していますが、分娩時に、赤ちゃん自身の肺での自発的な呼吸へと切り替わります。しかし、最初の自発呼吸がうまくいかない、あるいは血液循環が不良で酸素が体内に行きわたらないと低酸素状態に陥ってしまい新生児仮死になります。新生児仮死の状態が長引き、酸素が足りない時間が長くなればなるほど、赤ちゃんの脳細胞の壊死が進み、後に障害があらわれる可能性が高くなります。壊死した脳の部位によって障害は異なり、知的障害や運動障害などがあらわれます。

注3 Aicardi症候群:脳梁欠損(右脳と左脳をつなぐ部分=脳梁が欠損し発達障害やけいれんなどを伴うことが多い)、網脈絡膜症(物が歪んで見えたり、視界の中心部が暗く見えたりする目の異常)と点頭てんかんを主要症状とし、女児に限定して発症します。重度の知的障害や運動障害を伴います*。

*フローチャートでわかる小児てんかん診療ガイド2011;p.107:診断と治療社;大塚頌子編・著より一部引用改変

注4 胎児感染症:妊娠中は免疫力が低下し、ホルモンバランスが変化することから感染症にかかりやすくなります。たとえば、トキソプラズマは目に見えない寄生虫(原虫)で、健康な人が感染してもほとんど問題を起こしませんが、妊娠中に初めて感染すると、胎児にも感染して、発育不全や中枢神経の奇形、失明、てんかんなどの「先天性トキソプラズマ症」を引き起こすことがあります。また、サイトメガロウイルスはどこにでもいるウイルスですが、妊娠中に感染すると、胎児にも感染が及び、出生後にてんかんや自閉症、難聴、知的障害や運動障害などの症状が出ることがあります。

診断

点頭てんかんに特徴的なれん縮、ヒプスアリスミア、発達の停滞・退行の3つがそろえば診断は容易です。診断は、臨床発作と脳波所見によって行われます。

また、乳児期にみられる他のてんかんとの区別や、非てんかん性のけいれん現象との区別が必要になります。そのために脳波やMRIなどの検査をすることになります。

点頭てんかんでも、他のてんかんと同様に診断の基本は発作の観察です。点頭てんかんの特徴的な発作症状(瞬間的な点頭とシリーズ形成)に気づき、観察することがもっとも重要です。スマートフォンやデジカメ等で発作症状を撮影し、その動画を専門医に見ていただくと診断に役立ちます。

乳児期に認められる難治性てんかん

大田原症候群 新生児期~生後3ヵ月以内に発症  移行することがある 点頭てんかん 生後3~7ヵ月に発症することが多い ほぼ半数が移行する レノックス・ガストー症候群 1~8歳に発症 脳波

点頭てんかん脳波(ヒプスアリスミア)
(2歳0ヵ月)

点頭てんかん脳波(ヒプスアリスミア)(2歳0ヵ月)

正常脳波(1歳10ヵ月)

正常脳波(1歳10ヵ月)

治療

点頭てんかんのもっとも深刻な点は、重篤なてんかん性脳症です。この発作が始まると、数日~数週間の単位で笑わなくなり、不機嫌になります。首のすわりがなくなる、お座りができなくなるなど今までの発達が退行します。退行の原因としてはヒプスアリスミアにみられる脳波の異常が長時間持続していることが考えられ、初めての発作がおこる前にすでにこのヒプスアリスミアは存在すると考えられます。点頭てんかんは、発症後1ヵ月以内に治療を開始しないとその後の精神運動の発達は不良であるという研究もあり、脳に回復できないような変化がおこる前に有効な治療をできるだけ早く開始する必要性があります。そのためには点頭てんかん発作が疑われたら早急に専門医に診てもらうことが重要です。治療は単に発作を止めるだけでなく、発達を促すために行います。

予後

  • 9割の患者さんが精神運動発達遅滞をきたします。
  • 正常な発達は非症候性の症例に限られ、初めての発作が生後6ヵ月以降であることも予後良好因子の1つです。
  • レノックス・ガストー症候群などの難治性てんかんに約半数が移行します。
  • 焦点性てんかんが続発する場合は、精神運動発達の遅滞は軽いことが多いです。
  • 典型的ヒプスアリスミアを示し、シリーズ形成するものは発作予後が比較的よいです。
  • ウイルス感染に続いて発症するごく一部のWest症候群では自然寛解をきたす症例も存在します。

監修:渡辺 雅子 先生(新宿神経クリニック院長)

更新日:2018年10月01日

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