うつ病に関する用語集

経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct-current stimulation :tDCS)

1~2 mA(ミリアンペア)程度の微弱な直流電気を用いて脳の特定部分を刺激する手法で、身体を傷つけることがなく痛みのない脳刺激治療法です。頭皮に置いた2つの電極を一定の微弱な電流が通過することで脳の神経活動を調節します。副作用は頭皮の痒み程度で安全であることから、うつ病、不安、パーキンソン病のような神経・精神状態を治療する手法になりうることが、いくつかの研究によって示唆されています。しかし、詳しい作用メカニズムについてはまだ研究が続けられています。

シナプス伝達

脳には数多くの神経細胞が存在し、それらが結びつくことによって情報が伝達されたり、記憶が定着したりします。この役割をもつ神経細胞がニューロンです。ニューロンとニューロンの間の接合部位がシナプスで、そこで情報を伝達する側のシナプス前細胞から神経伝達物質が放出され、情報を受け取る側のシナプス後細胞に存在する受容体に結合して情報が伝達されます。

セロトニン

精神安定(うつや不安)に関連する神経伝達物質です。消化、血管や筋肉の調節、体温調節などの身体機能のコントロールにも関係しています。

ノルアドレナリン

神経を興奮させる神経伝達物質で、意欲、不安、恐怖と関係があります。

MRI

Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像診断装置)の略。

磁気の力を利用して臓器や血管を撮影します。放射線を用いず、CTなどよりも細かな画像が得られます。

CT

Computed Tomography(コンピュータ断層診断装置)の略。

X線を使って身体の断面を撮影する検査機器です。MRIよりも速く安価なのが利点です。

SPECT

Single Photon Emission Computed Tomography(単一フォトン放射断層撮影装置)の略。

体内に微量の放射性医薬品を注入して専用の装置で撮影することで、血流量や代謝機能の情報を知ることができます。

三環系と四環系

抗うつ薬の三環系、四環系は、ベンゼン環と呼ばれる「環」が3つまたは4つにつながった化学構造式が名前の由来になっています。

向精神薬(こうせいしんやく)

中枢神経に作用して精神機能に影響を及ぼす物質を指します。睡眠薬、抗うつ薬、抗不安薬および抗精神病薬などが該当し、世界的に処方量が増加しています。その背景には、心理・社会的ストレスの増大、高齢者の増加、メンタルヘルスに対する社会的関心の高まりに伴う精神科医療の普及などがあります。

抗不安薬

精神安定剤とも呼ばれ、多くはベンゾジアゼピン系薬剤で不安感や焦燥感を取りのぞきます。うつ病だけでなく、強迫性障害やパニック障害などの病気にも使われています。

抗精神病薬

強力精神安定剤とも呼ばれ、抗不安薬を服用しても、不安感や焦燥感が消えないときや、幻覚や妄想などの症状を抑えるために使われます。抗うつ薬と併用して効果を増強させる効果もあります。

気分安定薬

双極性障害(躁うつ病)に使われる薬剤で、躁状態にもうつ状態にも効果があるとされ、いくつかの抗てんかん薬もこれにあたります。双極性障害の方は、うつ状態で受診されることが多く、その鑑別が重要です。双極性障害には抗うつ薬は使用しないことが原則となっています。

睡眠薬

うつ病には不眠が伴うことが多いため、睡眠薬を処方されることがよくあります。

うつ病の診断基準

うつ病は、DSM-IVまたはDSM-5に基づいた診断基準を満たして初めて診断されます。うつ病の症状には、強いうつ気分、興味や喜びの喪失、食欲の障害、睡眠の障害、精神運動の障害(制止または焦燥)、疲れやすさや気力の減退、強い罪責感、思考力や集中力の低下、死への思い、などがあります。うつ病と診断されるには、このなかの「強いうつ気分」または「興味や喜びの喪失」のどちらか1つの症状を含む5つ以上の症状が存在している必要があります。しかもそれに加えて、期間(ほとんど毎日1日中、2週間以上持続)と障害の強さ(症状のために精神的ないしは社会的な障害が生じている)の基準を満たす必要があります。

うつ病自己評価尺度(CES-D)

CES-Dは、一般人におけるうつ病の発見を目的として、米国国立精神保健研究所(NIMH)により開発されました。有用性の高さから、世界中で普及しているうつ病の自己評価尺度です。質問項目は20問と少なく簡便に使用できます。各々のことがらについて、もしこの1週間で全くないかあったとしても1日も続かない場合は「A」、週のうち1~2日なら「B」、週のうち3~4日なら「C」、週のうち5日以上なら「D」を選びます。(1)~(20)までの項目得点の合計(0~60点)のうち、高得点ほど、抑うつ症状が強いことを示します。16点以上を「抑うつあり」と判定します。

高照度光療法

2500ルクスから1万ルクスの強い照明器具を30分から1時間使用して、体内時計の位相をリセットする(おもに前進させる)治療法です。直接光源を見つめなくても目から網膜に強い光がはいることで光の情報が伝えられ、メラトニンの分泌を抑制し、交感神経の働きを活発にして身体を覚醒させ、視交叉上核の体内時計のリズムを変化させます(朝治療を行うことで体内時計の位相は前進します)。

断眠療法

断眠療法は、医師や看護師の付き添いのもと、眠らずに過ごすことでうつ病の症状を軽減するというもの。まったく眠らない「完全断眠」と睡眠時間を半分にする「部分断眠」があり、症状などにより使い分けます。断眠療法の注意点は、短期間(1晩のみ、もしくは1週間に2回など)に限り、医師の管理下で実施する「医療」であるという点で、自己流で試すのは危険です。高齢者では血圧その他、心身への負担があり、双極性障害(躁うつ病)の方は躁状態に移行してしまう場合があることから注意が必要です。

ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale:HAMD)

1960年に英国のマックス・ハミルトン氏が考案しました。以後何回か改定されていますが、現在でも用いられる有用な心理検査のひとつです。HAMDは質問紙検査で、質問に対して答えが3~5個用意されており、その中で一番当てはまる状態を選択する形式です。患者さん本人が選ぶのではなく、検査者が患者さんの状態をみて選びます。検査には15~20分ほどの時間を要します。HAMDは「うつ病の重症度」を点数化します。例えばHAMD17はうつ病の諸症状を17項目に分け、17の質問に回答してもらいそれぞれを点数化することで重症度を推定します。点数が高いほど重症度が高いことになります。7点以下は正常範囲といわれていますが、社会機能の回復には4点以下という意見もあります。

ベック抑うつ評価尺度(Beck Depression Inventory: BDI)

BDIテストは、認知行動療法を提唱したアメリカの精神科医アーロン T ベック博士によって考案されたもので、抑うつの程度を客観的に測る自己評価表です。 質問は21項目で、点数が高いほど抑うつ症状が強いことを表し、10点以下は正常範囲といわれています。

大うつ病性障害

大うつ病性障害は一般的にいわれるうつ病のことを指します。うつ病はその症状のあらわれ方によって、大きく2つに分類され、それらを区別するために「大うつ病性障害(うつ病)」と「双極性障害(躁うつ病)」という病名がつけられています。抑うつ状態だけがおこるタイプが「大うつ病性障害」で、抑うつ状態と躁状態の両方がおこるタイプが「双極性障害」です。2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)の診断基準では、bipolar disorder[双極性障害]と区別するため、major depressive disorderという診断名がつけられています。これを日本語訳したものが「大うつ病性障害」です。本ホームページでは一般に普及しているうつ病という表記を用いています。

双極性障害

一般的に躁うつ病といわれる疾患で、うつ状態と躁状態を繰り返すために、現在では双極性障害と呼ばれています。うつ病は抑うつ状態が続く病気ですが、双極性障害は抑うつ状態に加えて、まったく逆の躁状態があらわれる病気です。この病気は抑うつ状態のときに診察を受ける方が多く、診断が難しいとされています。過去の病歴を丹念に尋ねる必要があります。うつ病と診断され、抗うつ薬で薬物療法を行っていた方の中には、薬での効果が認められないばかりか、薬の作用によって躁状態になって病相が変わり、そこで初めて双極性障害の診断を受けることがあります。

メランコリー型うつ病

典型的なうつ病といわれることの多いタイプで、大うつ病性障害と同義です。さまざまなストレスに適応しようと努力しているうちに脳の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンが減少して十分に機能しなくなるという経過をたどるものを指します。特徴としては、マイナス思考になる、「どうせだめだ」と初めからあきらめる、無気力になり、気分の落ち込みが続きます。

季節型うつ病

特定の季節にうつ病を発症し季節の移り変わりとともに回復がみられます。どの季節でもおこりうるのですが、冬季うつ病が有名で日照時間と関係があるのではないかと言われています。同じ季節に繰り返し、発症したことを確認する必要があります。

産後うつ病

産後4週以内にうつ病を発症するものです。ホルモンの変化、分娩の疲労、子育てに対する不安、授乳などによる睡眠不足など、不健康要因が重なることが影響していると考えられています。

監修:中村 純 先生

(産業医科大学名誉教授)

更新日:2021年5月10日

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