Q&A うつ病を理解するために

うつ病にかかりはじめた頃のちょっとした「気づき」はありますか。

普段の生活機能に支障が起きたときです。まわりから見ても元気がない、自分自身もなにもやる気がしないなど、行動に変化があらわれますが、なかでも睡眠障害がもっとも顕著な症状といえるでしょう。寝つきが悪くなる、朝早く目覚める、朝起きられないなど、睡眠-覚醒のリズムが乱れた結果、日中の行動に影響が出る、昼間眠くて仕方がない、体調がよくないなどの変調がみられたらうつ病の可能性が考えられます。

うつ病と診断されたとき家族はどう対応すればよいでしょう。

うつ病という病気を理解し、病気に関する知識を持っていただくことが大切です。また、本人の訴えに対しては否定的な対応をせず、支持するように接します。うつ病の病期にもよりますが、「頑張って」などと励ますのもよくありません。できるだけ睡眠と覚醒のリズムを戻すために、本人と家族とで生活習慣の見直しをしましょう。

本人が薬を続けるために家族はどのように見守ればよいでしょう。

うつ病の方は、病気だという認識がないことが多いので、薬を飲まない患者さんが多くいます。また、その逆で自殺を考えて大量服用する患者さんもいます。服薬に問題がある場合は家族が薬を管理したほうがよいでしょう。薬には効果もありますが、副作用もありますから、体調の変化の有無など、本人に聞いて確認しておくことも必要です。

うつ病の休養中は自宅でどのように過ごしたらよいでしょう。

できるだけ普段のように過ごすのがベストですが、うつ病の方は「抑うつ気分」のために、倦怠感やひどい疲れを感じて気力が低下しています。やりたくないことは無理せず、ごろごろしていてよいのです。
また家族の方も、気分転換にと無理に外に連れ出すことや、「テレビでも見たら」と勧めることは、うつ病の方にとっては苦痛でしかありません。強制や押しつけはせず、本人がやれることをさせることが大切です。

薬を処方されたとき、体に合わないと判断する期間はどれくらいでしょう。

抗うつ薬はすぐに効果が出るものではなく、およそ10日から2週間前後で効果が見えてきますが、副作用は比較的早くあらわれやすいのが特徴です。服薬から3~4日で薬の種類の適合や量などの判断ができますので、初診時に処方する場合、専門医は1週間分の薬で様子を見ることが多くあります。それによって、次の診察で副作用の症状や体調の変化を確認し、患者さんの状態に合わせて薬の種類や量を調整します。副作用がひどくて耐えられない場合は、自己判断で薬をやめてしまわずに速やかに主治医の先生に相談しましょう。

うつ病と診断されたら必ず仕事や学校は休まないといけないのでしょうか。

うつ病の方には休養が大切ですが、決して休まないといけないというわけではありません。重症度にもよりますが、職場や学校など受け入れる環境が整っている場合は、薬物療法を受けながらも今までの社会生活を維持することを勧めています。

仕事や学校を休まずに薬物療法を受ける場合の注意点などがあれば教えてください。

薬物療法をしながら社会生活を継続する場合は、昼間の眠気、吐き気などの副作用が出ると仕事や授業で支障をきたすことから注意が必要です。ただし、血中濃度はしっかり維持しなければならないため、薬を服用する時間を寝る前にするなど、患者さんの生活に合う薬の選択が求められます。

うつ病と躁うつ病はどのように違うのでしょうか。

躁うつ病はうつ状態と躁状態を繰り返すために、現在は双極性障害と呼ばれています。うつ病は抑うつ状態が続く病気ですが、双極性障害は抑うつ状態に加えて、まったく逆の躁状態があらわれる病気です。この病気では抑うつ状態のときに診察を受ける方が多く、診断が難しいとされています。過去の病歴を丹念に尋ねる必要があります。うつ病と診断され、抗うつ薬で薬物療法を行っていた方の中には、薬での効果が認められず、そのうち躁転して病相が変わり、双極性障害の診断を受けることがあります。双極性障害では気分安定薬を処方することが基本となっています。

うつ病にはどのような種類があるのでしょうか。

社会的な用語としては、昇進うつ、サンドウィッチ症候群、引越しうつ、結婚うつ、離婚うつなどといわれるものがありますが、喪失体験と呼ばれ、新しい環境や人間関係に適応できないために抑うつ状態になります。はたから見て非常に喜ばしいことでも、本人にとっては大きな転換期となるため、それに適応できず、うつ病を患うことがあります。
老年期のうつ病は認知症の危険因子とされており、そのままアルツハイマー型認知症に移行する方もいますので注意が必要です。

マスメディアなどで注目される新型うつと呼ばれるうつ病は本当にあるのでしょうか。

新型うつは、主に若年者にみられる軽症抑うつ状態のことを指します。自分の好きな仕事や活動のときだけうつ症状が軽くなり、うつ状態の持続時間が短いものや訴えに身体的疲労感や不調感を伴うことが多いとされています。「新型(現代型)うつ」はマスコミ用語といってもよく、特定の診断基準(DSM-ⅣまたはDSM-5)を満たさないので、ほとんどが適応障害だと考えられています。抑うつ状態が2週間以上続くのがうつ病の診断基準ですが、新型うつは、状況に応じて抑うつ症状が強くなったり、弱くなったりするので、日本うつ病学会も本来のうつ病としては認めていません。

うつ病の回復には段階がありますか。

うつ病の回復過程は大きく3段階に分かれます。患者さんによって異なりますが、まずはイライラや不安感が取れ、次に抑うつ気分が改善し、幸福感が得られるといったように順を追って症状が軽減され、一般的に3ヵ月ほどで気持ちが安定していきます。
治りかけは「おっくう感」が残っている状態ですが、この時期から休職している方には復職指導を行います。

うつ病の再燃、再発防止策を教えてください。

うつ病の方はストレスを強く感じやすいこともあり、もとの仕事や生活に復帰しても再燃、再発しやすい病態といわれています。その予防として、少量でもよいので薬は継続したほうがよいでしょう。薬物療法の継続期間や薬を減らしていくタイミングは、うつ病の重症度にもよりますので、主治医の先生とよく相談することが大切です。また、日常の思考や行動パターンの見直しをする認知行動療法も、再発予防として知られています。

うつ病の誘因はストレスだけでなく、アルコール依存症も関係していますか。

うつ病の方の睡眠は、睡眠中の中盤から後半にかけての深い眠りが消失しています。また、アルコールを大量に摂取したり、寝入りばなにお酒を飲むと、寝つきは良いですが、深い眠りが減ってしまい、その睡眠パターンはうつ病の方の眠りと似ています。アルコール依存症による抑うつ状態は二次性のうつ病といわれますが、うつ病の方が眠れずにお酒を飲むことでアルコール依存症になる場合もあり、うつ病とアルコール依存症とは相互に深い関係が認められます。

子どもが学校へ行かなくなりました。
    「引きこもり」や「不登校」とうつ病は関係ありますか。

最近では子どもでもうつ病になるといわれています。しかし、子どものうつ病の場合、大人のようにはっきりとした自覚症状がないことが多く、慎重な対応が求められます。「引きこもり」や「不登校」などのように、行動に変化がみられた場合は、うつ病を疑う要因として考えることもできますが、うつ病と診断する前にその原因をできるだけ探る必要があります。「引きこもり」や「不登校」は必ずしも病気によるものではなく、その背景には学校での友人関係や家庭内の問題などのさまざまな要因が考えられるからです。子どもに原因を聞いても話したがらないことが多いため、医師などの専門家に相談することをお勧めします。最近では、子どものこころの病気を専門的に診る病院もあるため、このような病院を利用することもよいと思います。

うつ病では薬物治療だけでは十分ではなく、休養も大切ですか。

うつ病では、早期に「適切な治療」を行えば一般的に、6ヵ月から1年ほどで回復してくるといわれています。「適切な治療」とは休養、指示どおりの服薬、周囲の理解とサポートなどさまざまな要素がうまくかみあった治療のことです。つまり、抗うつ薬による治療を続けていてもハードに仕事や家事をしていては、薬剤の効果を十分に得ることはできず、また、休養できる環境を作っても、薬剤を医師の指示どおりに服用していなければ症状は改善されません。「適切な治療」を続けることで、より高い治療効果が期待できるようになります。

抗うつ薬を飲むことに不安がありますが、治療には必要なのですか。

抗うつ薬がうつ病の治療に使用される理由は、脳内神経伝達物質の働きを修正して意欲ややる気を取り戻すためです。抗うつ薬を服用することで、気分の落ち込みなどが改善されますが、その人が本来もっている性格が変わることはありません。

抗うつ薬を飲み始めましたが、すぐに効果が出てきますか。

抗うつ薬は即効性のある薬剤ではないため、病院で処方されて服用し始めたからといってすぐに効果はあらわれません。効果があらわれ、症状が改善されてくるまでに約2~4週間ほどかかることがあります。そのため、服用し始めてすぐに効果があらわれないからといってあせったり心配したりする必要はありません。また、自己判断で服用をやめてしまうのもいけません。

抗うつ薬の量を増やされました。症状が悪化しているのでしょうか。

抗うつ薬の服用は基本的に少量から始めて少しずつ量を増やしていきます。これは、それぞれの患者さんに必要な量を調整したり、少量から始めることにより副作用を避けるためです。抗うつ薬の量が増えると「自分は症状が悪化しているのではないか」と不安に思う人もいますが、徐々に薬剤の量を増やしていくことは抗うつ薬では一般的なことです。

抑うつ症状が改善しました。抗うつ薬を自己判断でやめてもいいですか。

「早く抗うつ薬をやめたい」と思っても、抗うつ薬は、医師の指示がある間は服用を続けなければなりません。その理由は;
・うつ病は再発しやすい病気なので、症状がよくなってもその状態を維持するためにしばらくの間、服用を続けることが大切です。
・症状がよくなっても、それは薬剤によってうつ病の症状が改善しているからで、本当に治ったわけではない場合があるためです。しかし、通常は、症状がよくなるにつれて抗うつ薬の量も減り、本当によくなれば服用しなくても大丈夫になります。
・医師の指示がないのに自己判断で服用をやめると、抗うつ薬の離脱症状である不安発作や自律神経症状がおこったり、うつ病の再発や慢性化の原因になります。

抗うつ薬はどのくらいの期間服用を続けますか。

医師の指示がある間は服用を続けてください。うつ病の症状が悪いときは指示通りに服用していても、少し症状がよくなってくると、自己判断でやめてしまう例がみられます。医師の指示通りに服用しないとうつ病の再発を招く場合があり、慢性化することも考えられます。医師の指示に従って服用することが大切です。

抗うつ薬の副作用がでたらどうしたらよいでしょうか。

どんなくすりにも副作用はあるように、抗うつ薬の中にも副作用がでるものがあります。心配しすぎてもいけませんが、服用しはじめにあらわれる一時的なものもあるため、まずは医師に相談してみましょう。

抗うつ薬の服用を続けると依存症になるのではないかと心配です。

抗うつ薬には抗不安薬や睡眠薬の一部にある習慣性や依存性はありませんので、医師の指示通りに安心して服用してください。

高齢者が、抗うつ薬の影響で認知症になることはありますか。

「抗うつ薬をのみ続けると認知症になる」という話には全く根拠はありません。このような噂を信じて、服用をやめてしまうと症状が悪化する恐れがあります。また、老化による認知症の症状にうつ病と似た症状があらわれることがあるため、認知症なのかうつ病なのか専門の医師のもとできちんと鑑別することが必要です。

抗うつ薬と市販の風邪薬や胃腸薬を一緒に飲んでも大丈夫ですか。

市販の風邪薬や胃腸薬などを一緒に服用すると薬物相互作用がおこることもあるので医師または薬剤師に相談してください。

薬ではなくカウンセリングでうつ病を治したいのですが。

カウンセリングによって、うつ病の一因となっている問題を話し合い、解決策を見出すことで症状が軽減することはあります。一方、抗うつ薬には、うつ病に関連する脳内神経伝達物質の働きの乱れを調整する効果があります。薬による治療の目的は、症状を抑え、うつ状態を改善し、通常の生活リズムに戻すことです。カウンセリングによる治療を希望されても、精神科医または心療内科医がそれぞれの状況に合わせて治療計画を判断します。通常は抗うつ薬で脳内神経伝達物質の働きを整えながらカウンセリングをする方が、より効果的であるとされています。

うつ病の“遷延化”というのはどういう意味ですか?また、なぜそうなるのですか。

うつ病の症状が長く続き、治療期間も長くなると、うつ病が遷延化したと言います。患者さん側からの見方としては、症状に波があり、QOLも十分に回復していない状態が続いており、慢性化していると考えることもあるでしょう。遷延化と慢性化は厳密には区別できないと思われます。通常、うつ病は、適切に治療すると半年から1年以内に十分な改善がみられます。しかし、環境調整や治療を行っても症状が改善せず、遷延化してしまうことがあります。その原因の1つとして、医師の指示通りに抗うつ薬を服用していない、あるいは自己判断で服用をやめてしまったなど、抗うつ薬の用量や期間が不十分であることが挙げられます。医師の指示通りに服用しないとうつ病の再発を招く場合があり、うつ病の遷延化につながってしまいます。早期に治療を開始しても、遷延化してしまうと治り難くなります。また、治療開始が遅れても、遷延化につながる可能性があります。うつ病も他の病気と同様、早期発見、早期治療が原則です。うつ病を疑ったら、早めに精神科の専門医に相談することが大切です。

認知行動療法が有効だと聞きましたが、どこで受けられますか。

認知行動療法は、有効な治療法であることに違いありません。認知行動療法は精神科医が行う精神療法のひとつで、すでに一般的な治療法の一部になっています。また、認知行動療法のほかにも多くの有効な精神療法があり、これらも広く行われています。認知行動療法も含めた精神療法は薬物療法と組み合わせて行うことが精神科治療の基本であり、薬物療法に代わる治療法ではありません。どちらが優れている、という比較をするのではなく、精神療法には薬物療法と同様に意義と限界があることを理解したうえで、うつ病の治療効果を高める努力が必要です。

監修:中村 純 先生

(産業医科大学名誉教授)

更新日:2021年5月10日

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