てんかんの定義1)
- 2005年の定義では、「てんかん」は概念的に「てんかん発作をおこす持続的な素因を特徴とする脳の障害」であり、2回以上の発作がある場合に適応されるとなっています。
- 2014年には、これに加えて実用的な定義が作成されました。
- 2回以上の発作がある場合(2005年の定義と同じ)
- 1回の発作であっても、脳血管障害後などで、2回目の発作がおきる確率の高い場合
- 「てんかん症候群」注)の特徴を備えている場合
2.と3.が加わったことによって、より早く治療を開始し、発作がより止めやすくなるように工夫されました。
注) てんかん症候群とは、てんかん発作の出現年齢、発作型、脳波異常パターン、頭部画像検査、その他の神経症状などに一定の共通性を有するグループのことをいいます。約30のてんかん症候群があるといわれていますが、個々のてんかん症候群に当てはまらない患者さんも数多くみられます。
1) Epilepsia. 55:475-82, 2014. Fisher RS, et al.: ILAE official report: a practical clinical definition of epilepsy.
てんかんの年齢別発症率
てんかんは、赤ちゃんから高齢者まですべての年齢でみられ、特に小児、思春期と高齢者での発症率が高いといわれています。てんかんの発症率は新生児期(生後1年未満)で高く、その後低下しますが、50歳代で上昇に転じ60歳以上では目立って上昇する傾向にあります。高齢化が進みつつある社会では「高齢者のてんかん」に対する理解を深める必要が高まっていくものと思われます。
こうした傾向を踏まえて本ウェブサイトでは、小児と高齢者のてんかんに焦点を当てています。
てんかんの原因
てんかんの原因はさまざまで、脳血管障害、脳腫瘍、脳外傷、アルツハイマー病、感染症、自己免疫などがありますが、検査をしても原因がわからない場合が多くみられます。そこで、原因が不明な「特発性てんかん」と、原因が明らかな「症候性てんかん」に分けられ、前者が全体の約6割、後者が残りの約4割を占めるとされています。高齢者の発症原因は、脳血管障害がもっとも多く、次いで、脳腫瘍、頭部外傷、アルツハイマー病などがあげられます。
てんかん発作の種類
てんかん発作は、脳の一部分が興奮しておこる「焦点(部分)発作」と脳の大部分または全体が興奮しておこる「全般発作」、両者に分けられない「分類不明の発作」の大きく3種類に分けられます。
てんかん発作の種類
焦点(部分)発作
焦点発作では、意識がはっきりしているかどうかで「単純部分発作」と「複雑部分発作」に分かれます。
1. 単純部分発作(意識障害なし)
患者さんの意識がはっきりしているなかでおこる発作をいいます。意識がはっきりしているため、発作中、どんな症状があったか覚えています。手足や顔がつっぱる、ねじれる、ガクガクとけいれんする、光や色が見える、人の声が聞こえる、片側の手や足のしびれ、吐き気をもよおす等があります。
2. 複雑部分発作(意識障害あり)
意識が遠のくため、患者さんは発作中のことを覚えていません。発作は通常1~3分続きます。単純部分発作から続くこともあれば、突然複雑部分発作から始まることもあります。脳のどの部分が興奮するかにより、意識障害に伴ってどのような症状があらわれるか異なります。たとえば、側頭葉から興奮がおこった場合、衣服をまさぐる、口をもぐもぐする、口をぺちゃくちゃ鳴らす、ウロウロ歩くといった一見無意味な動作があらわれます。前頭葉から興奮がおこった場合、身体をバタバタさせたり、自転車をこぐような動きをします。
3. 二次性全般化発作 (全般発作の強直間代発作とあわせて広義の意味で大発作とよびます)
単純部分発作あるいは複雑部分発作から、電気的興奮が脳全体に広がって全身のけいれんにつながることをいいます。発作の後半は、全般発作の強直間代発作と似ています。
全般発作
脳の広い範囲が興奮しておこる発作で、患者さんはミオクロニー発作を除いて意識がありません。「強直間代発作」、「欠神発作」、「ミオクロニー発作」、「脱力発作」があります。
1. 強直間代発作(狭義の大発作)
もっともよく知られているてんかん発作です。前兆がなく突然、全身のけいれんをおこします。その際、最初に叫び声やうめき声が出ます。手足を硬く伸ばして全身が硬くなる状態が数秒~10数秒続きます(強直期)。その後、手足を一定のリズムでガクンガクンさせながらけいれんします(間代期)。発作中は口を固くくいしばるため、口の中や舌を噛んだり、呼吸停止がみられます。発作は突然おこるため、転倒によるけがに注意が必要です。発作は1分ほどで終息しますが、そのまま眠りに入ったり、意識がもうろうとしたり、失禁することもあります。15~30分で意識は回復しますが、その後、頭痛、筋肉痛、嘔吐がみられる場合もあります。
2. 欠神発作
突然、動作が止まったり、ボーっとしたり、話が途切れたり、反応がなくなるという症状の発作です。発作時間は5~20秒くらいと短いために周りの人にてんかん発作と気づかれず、集中力がない、注意力散漫などと勘違いされることもあります。主に小児期に発症し、成人期に発症することはまれです。
3. ミオクロニー発作
突然、手足や全身がびくっとけいれんする状態です。単発でおこったり、連続しておこったりとさまざまです。寝起きによくおこります。
4. 脱力発作
突然、全身の力が入らなくなり、頭がガクンと垂れて、倒れこんでしまいます。持続時間は1~2秒ですが、突然転倒するためけがをしやすく頭部を保護することが必要です。
合併することのある併存症
てんかんの患者さんには、脳の障害部位によって、知的障害、運動障害、高次脳機能障害(言語障害など)がみられることがあります。その要因として、さまざまな原因によってもともと脳に何らかの障害があり、それが、一方では知的・運動・高次脳機能などの障害を引きおこし、他方ではてんかんをも引きおこすことが考えられます。また、なかにはてんかんによりそれらの障害が引きおこされた、あるいはそれらの障害の程度が重症化したと考えられる場合もあります。その他、てんかんによる不安や孤立などから二次的併存症として、うつ病、不安障害などの精神的な問題がおきるおそれがあります。