高齢者のてんかん

高齢者のてんかんとは

てんかんは子どもの病気と思いがちですが、高齢者でもてんかんは発症します。海外の研究では、てんかんの発症率は、2000年ころから高齢者が小児を上回るようになり、今日では高齢者の発症率が最も高くなっていると報告しているものもあります1)。高齢者のてんかんの患者数は、日本では大規模な調査は行われていないため、明らかになっていません。そのため、てんかんがあるにもかかわらず未治療の高齢者が多いかもしれないといわれています。今後、ますます高齢化が進むことで高齢者のてんかんも増加すると推測されています。

年齢別てんかん発症数

年齢別てんかん発症数

出典:日本神経治療学会治療指針作成委員会編集「標準的神経治療:高齢発症てんかん」463ページ、Fig. 1「年齢別てんかん発症数」(日本神経治療学会の許可を得て転載)

1)Epilepsia. 52: 1857–67, 2011. Sillanpää M, et al.: Regional differences and secular trends in the incidence of epilepsy in Finland: a nationwide 23-year registry study. 

てんかんの年齢別発症率

高齢者のてんかんの原因

高齢者のてんかんは、脳卒中の後遺症、脳腫瘍、頭部外傷、中枢神経の感染症、加齢に伴う脳の異常、認知症などによりおこることが多く、このように原因の明らかなものが全体の半分~約2/3といわれています2)。原因不明とされてきたなかに「扁桃体肥大」が隠れていることも最近明らかになってきています3)

2) 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)
総合研究報告書
てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究:(4)高齢者入院施設のサンプル調査(赤松)

3) Epilepsy Res. 112:114-21, 2015. Sone D, et al.:
Evaluation of amygdala pathology using (11)C-methionine positron emission tomography/computed tomography in patients with temporal lobe epilepsy and amygdala enlargement. 

高齢発症てんかんの原因疾患2)

高齢発症てんかんの原因疾患

高齢者のてんかんの症状

高齢者のてんかんは部分てんかん(てんかん発作の種類)がほとんどです。発作は若年者に比べると二次性全般化発作が少なく、多くは複雑部分発作でけいれんを伴わない目立たない発作が特徴です。前兆症状は少なく、ボーっとする、不注意、もうろう、無反応、奇異な行動などで、こうした発作の後に意識がもうろうとした状態が数時間~数日続くことがあります。認知症と誤診されることもあります。発作とは別に過去のエピソード記憶が失われること(人生の大事なイベントを思い出せないなど)も高齢者てんかんの特徴です。

高齢者に意識を喪失する発作がおきた場合は、心疾患、脳血管疾患との鑑別が必要で、原因を確定することが特に重要です。

高齢者は慢性疾患などをもっていることが多く、もっとも多い合併症は、脳梗塞などの脳血管疾患です。また、逆にてんかんの症状をもつ高齢者は、もたない高齢者に比べて、その後、脳血管疾患を発症しやすくなるという報告もあります4)

また、てんかんと認知症との関連性として、アルツハイマー型認知症の高齢者の約20%がてんかん発作を併発するという報告5)もあります。

4) Demos Publications, New York,1990.p.1-51. Hauser WA, Hesdorffer DC eds.: Epilepsy: Frequency, causes and consequences.

5) Drugs Aging. 20:791-803, 2003. Mendez M and Lim G.: Seizures in elderly patients with dementia: epidemiology and management..

 

高齢者のてんかんの診断

高齢者のてんかんにおいても、発作時の状況を詳しく問診していきます。各種検査についてはてんかんの診断に用いられる検査のページをご覧ください。高齢者の場合では、過去のほかの病歴などもあわせて、医師に伝えましょう。

また、高齢者のてんかんは、けいれんを伴わないことが多いため、診断が困難なこともあるようです。また、てんかんの症状に似たほかの病気との鑑別も必要になります。もし、以前に病院で次にあげられるような病気の名前を言われたことがある場合には、必ず主治医に伝えましょう。

神経の病気:  片頭痛、ミオクローヌス、一過性脳虚血性発作や認知症
睡眠の異常:  睡眠時無呼吸症候群、REM睡眠行動障害、入眠時ミオクローヌス
精神・心理的な疾患:  パニック障害、過呼吸発作
循環器系の病気:  起立性低血圧、不整脈、心臓弁膜症、心筋症、神経調節性失神
代謝・内分泌系の病気:  糖尿病等でおこる低血糖状態や脱水などでおこる電解質の異常

高齢者のてんかんの治療

高齢者のてんかんは、診断がつきにくいという問題があるだけでなく、発作や意識障害が長引き、脳に障害を与える危険性があります。また、転倒によって骨折などけがをする可能性もあります。適切な診断と治療が望まれます。

抗てんかん薬による治療効果は良好で、80~90%で発作が消失ないし抑制できます。しかし、高齢者のてんかん治療には注意しなければならない点があります。

薬の副作用が強く出やすい。高齢者では代謝や排せつに時間がかかるため血中の薬物濃度が上昇します。

脳に障害のある高齢者では、認知症に似た症状、眠気、ふらつきなどの症状が出やすくなります。

他の疾患の薬を服用していることが多く、てんかん治療薬との相互作用が出やすくなります。

治療中に異常を感じたら、主治医に相談しましょう。

監修:渡辺 雅子 先生(新宿神経クリニック院長)

更新日:2018年10月01日

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